ブバネシュワールにて開催される2年に一度の総合芸術祭、オディシャビエンナーレ2017。パフォーミングアーツ部門の出演アーティストラインナップが更新された。10月28日(土)〜11月5日(日)までの9日間。どんな舞台が繰り広げられるのか。

注目すべきは、「伝統」と「コンテンポラリー」の対比だ。
遠い異国の「伝統」である日本舞踊はインドの観客にどういった受け取られ方をするのだろう。日本からは国内外で活躍する日本舞踊家・藤間蘭黄氏がパフォーマンスを披露する。

ビエンナーレではインドの新しい価値観で創作された舞台芸術コンテンポラリーダンスの作品が観られる。

デリーから招聘されたマンディープ・ライキー氏のトランスジェンダーを扱った作品「Queen-size」はベッド一台のセットで男性同士のセックスを連想させる動きを振付けした問題作。保守的な土地柄であるブバネシュワールで上演すること自体が挑戦的である。

(インドには、「第三の性」を意味する「ヒジュラ」と呼ばれる人々がいる。一方、トランスジェンダーに関しては、刑法第377条によって「自然の秩序に反する性的行為」が禁じられている。インド最高裁で2013年に「同性愛は違法」としながらも、2014年にヒジュラの人権は認められた、という最近の状況をめぐって激しい議論がある。)

日本・インド国内、欧州その他から国際的に活躍するアーティストを招集したパフォーミングアーツ部門のプログラム。監修は稲田奈緒美氏と、日本側の代表をつとめるメディアアーティスト・演出家の松尾邦彦氏によるものだ。

ダンスとアートの新しい総合芸術祭「オディシャ・ビエンナーレ」
オディシャ・ビエンナーレ 2017
日時:2017年10月28日~2017年11月5日
場所:インド、オリッサ州、ブバネシュワール
会場:Mindtree Kalinga Campus / MOPA studio

テーマ
「Body±Cloth=」 – 衣服を纏う、身を纏う –

オディシャ・ビエンナーレでは、グローバルとローカルを密接にリンクさせることを目指し、パフォーミングアーツ部門の舞台鑑賞だけでなく、来訪者が気軽に参加できる色々な企画が行われる。

・現地オディシャの工芸品の展示と、クラフトアートのデザインセミナーやワークショップ 詳細
・パフォーミングアーツ部門出演アーティストのワークショップ 詳細

プログラム全体のタイムテーブル 詳細

主催(共同主催)
インド:NPO法人 Mudra Foundation
日本:一般社団法人Tokyo-Odisha Cultural Exchange

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【出演アーティスト】(以下、敬称略)
・小野雅子/Masako Ono(オディッシーダンス)
オープニングセレモニー 2017年10月28日(土)18:00〜
幼少からモダンダンス・クラシックバレエを学び、インド古典舞踊オディッシーダンスのため単身インドへ留学。世界レベルのインド舞踊家を育成輩出するヌリッティアグラムのダンサーとして活躍の後、2001年にソロデビュー。ブバネシュワールを拠点に、多くのインド国内・海外公演で評価を得て、日本人初となるインド政府公認オディッシーダンサーとなる。

【パフォーミングアーツ部門の出演アーティストと作品名】
日本からの招聘アーティスト2組

・藤間蘭黄/Fujima Rankoh(日本舞踊家)
『鷺娘/Sagi Musume(Heron Maiden)』

江戸時代から続く「代地」藤間家の後継者である日本舞踊家 藤間蘭黄による、鬘、化粧などをしない「素踊り」の演目で、日本舞踊の動き、和服と日本舞踊の関係をじっくりみせる。また、藤間蘭黄と力石友弥/antymark(映像作家)によるコラボレーション作品を上演する。

・力石友弥/antymark(映像作家)
ライブVJユニットとして活動をスタートさせたantymark。現在では多くの大手企業イベントの演出も手がけている。プロジェクションマッピングを中心に、照明を絡ませた空間演出、センサーを用いたインスタレーションなどの映像ディレクションの分野で活躍している。

・累累/Rui Rui(コンテンポラリーダンス・パントマイム)
コンテンポラリーダンサー藤田善宏/Yoshihiro Fujitaとマイムパフォーマー丸山和彰/Maruyama Kazuakiによる無声劇ユニット
『おとしモノ』

衣装を変えることによって「変身」を多用し、パントマイムを使って物語をわかり易く伝えた作品。退屈させない奇想天外ユニークな発想で、日常のあらゆるモノがあっという間に変化する「見立て」の世界。

インドからの招聘アーティスト3組

・Mandeep Raikhy(コンテンポラリーダンス、デリー)
『Queen-size』

ゲイのセックスを犯罪とする時代遅れの法律、刑法第377条に対するレスポンスとして、問題提起した作品。2016年~2017年にかけてインド国内20都市以上とロンドンで公演されている。

・Ronita Mookerji(コンテンポラリーダンス、バンガロール)
『Who?』

Who?は、小さな木箱の中に入り込み「型にはまった」状態で、自己探求をするダイナミックな作品。ロニータは5歳の時からインド古典舞踊バラタナティヤムを踊り始め、現在でも練習を積んでいる。

・Hemabharathy Palani(コンテンポラリーダンス、バンガロール)
『Yashti』

有望な才能の1人といわれる振付家・パフォーマーであるヘマ。表情豊かで優美な動きは、インド古典舞踊のバラタナティヤムと、クチプディダンスのルーツによるもの。
Yashtiは女性の物語、葛藤、愛、嫉妬など感覚的で多面的な肖像を作り出し、パフォーマンスを通して独白する。

バンガロールからの2人の女性のアーティストは共にインドを代表するコンテンポラリーダンス・カンパニー「アタカラリ・センター・フォー・ムーヴメント・アーツ(Attakkalari Centre for Movement Arts)」の中心メンバーである。

また、ビエンナーレのアーティスト選考にあたった稲田奈緒美氏は、The Dance Timesの記事でヘマバラティ・パラニ/Hemabharaty Palaniとロニータ・ムカルジ/Ronita Mookerji を以下のように評している。

引用
”「基本メソッドとして古典舞踊を習得し(省略)古典舞踊の型をベースにしながら、そこからの逸脱と自我を表出させる表現を試みる。」

「その強い表現からは、古典舞踊とコンテンポラリーダンスのはざまで創造する自らのアーティストとしてのアイデンティティと、インドにおける社会的、経済的な女性の地位や関係性など個人としてのアイデンティティを模索していることがダイレクトに伝わってくる。」

「彼女たちの集中力の高いプレゼンスと表情、緊密な神経の束で造形されたような硬質で美しい型とそこから生まれる隙のないムーブメント、インドで女性が表現することへの抑圧と切実な欲求を感じさせるものであり、見る者に強い印象を残した。」”

コンテンポラリーダンスの舞台を通して、それぞれの新しいインド人女性の価値観を表現する2人の女性アーティストのパフォーマンスはビエンナーレの1つの見所となる。

欧州その他からの招聘アーティスト2組

・VEDANZA(コンテンポラリーダンス、ルクセンブルク)
『Project O』
Project Oは、4歳以上の子供を対象にした、魅力あふれる現代のおとぎ話。
3人のダンサーとミュージシャンが、消えた月を探して宝探しへ。そこは夢のような現実と抽象の交差する世界で、遊びやサプライズが繰り広げられる。彼らは月を見つけて、空に戻すことができるか?

・Moya Michael(コンテンポラリーダンス、ベルギー/南アフリカ共和国)
(作品名未定)
南アフリカのヨハネスブルグに生まれ、バレエを訓練したのちコンテンポラリーおよびアフリカ舞踊の学位を修了する。3年間の奨学金を得てロンドンへ。国際的な賞にノミネートされ、評価を得る仕事をした。インド、中国、ドイツ、南アフリカ共和国、オーストリアでのコラボレーションなど精力的に作品を発表している。現在ベルギー在住。

・Gombe Cultural Troupe(アフリカ音楽と踊り、ウガンダ)
音楽、舞踊、楽器演奏のスキルをもつ学生を受け入れた学生事業のアフリカンアンサンブル。
Otwege(西ナイル)、Lakaraka(ウガンダ北部)、Kintagululo(ウガンダ西部)、Ding Ding(ウガンダ東部)Kiganda(ウガンダ中央部)など様々な民族社会・地域の異なる伝統的なダンスを、独自性を守りながらもコンテンポラリーな演出でみせる。ビエンナーレのクロージングパフォーマンスとして20人以上のメンバーで盛り上げる。

【アーティストインレジデンス】
船井伊智子/Ichiko FUNAI(現代美術家・衣装家)
「衣服を着ること」への問いかけ 詳細
フランス・パリに在住する現代美術家・衣装家。ブバネシュワールに約一ヶ月滞在し、現地の工芸家や作家とともに作品制作を行い、発表する。また、ビエンナーレ内でパフォーミングアーツ部門の舞台の出演アーティストとの、コラボレーションを企画。ジャンルを越えたコラボレーションをすることで、パフォーミングアーティスト、レジデンスアーティスト、現地の作家それぞれにとって新しい展開のきっかけをつくる。

【シンポジウム】
2017年10月31日(火)13:00-16:00
企画・司会進行:稲田奈緒美(舞踊評論、研究)、サダーナンダ・メノン(批評家・編集者・ジャーナリスト)

登壇予定者
ジャヤチャンドラン・パラジー(インド Attakallari Banglore Biennale ディレクター)桜井多佳子(舞踊批評家)、マンディープ・ライキー(インド IGNITE ディレクター)、小野雅子(日本 Mudra Foundation CEO・オディッシーダンサー・振付家) 、藤間蘭黄(日本舞踊家)、藤田善宏(累累・演出家・パフォーマー)、丸山和彰(累累・演出家・パフォーマー)、松尾邦彦(メディアアーティスト)

日印を代表する舞踊評論・批評家のナビゲートによる、日本とインドの古典舞踊とコンテンポラリーダンスを深く理解するためのシンポジウムにも注目したい。伝統と現代、保存・継承と創造について、幅広い知見から議論する。

インドからは現代ダンスの盛んなバンガロールのシーンを引率するアタカラリ/Attakallariのディレクター、ジャヤチャンドラン・パラジー氏も登壇する。

文化・芸術のシーンは、感性をもって作品を批評的に観る鑑賞者がいてはじめて、アーティストにフィードバックされ、成熟していく。プロの批評家のレビューや意見から本質を学び、観る目を養うことで、より芸術観賞を楽しむことができるようになる。

前回ビエンナーレにて行われたシンポジウム

【支援について】
オディシャビエンナーレ2017を開催するにあたってかかる費用は、個人からの寄付、企業からの協賛サポートにより成り立っている。現在クラウドファウンディング、マクアケ(日本語)Kickstarter(英語)にて、支援プロジェクトが公開中だ。

インド一般に、伝統舞踊や音楽といった芸能は、富裕層が招いて庶民は無料で観るものという固定観念があるようだ。新しいシーンをつくるには、まだまだ社会が成熟しておらず「芸術観賞にお金を支払う」という価値観が根付いていないため、運営費が入場料で賄えないという事情がある。

現地の孤児院や障害者施設の子供達へのワークショップも行われる予定で、アートを通じた地域社会への支援活動はビエンナーレの目的の一つだという。

インド古典舞踊オディッシーダンスをはじめとした伝統文化の宝庫であるオリッサ州で、現代芸術やコンテンポラリーダンスがどのように受け入れられるのか?参加できる方は現地に足を運んで、その様子を見てほしい。

興味があっても行けないという方は、ビエンナーレを支援するという形で参加することで、社会的に弱いコミュニティの子供達や若者に、開かれた未来をつくるきっかけとなる。

企業による協賛は、社名ロゴ掲載からはじまり、舞台ステージ上での広告展開から、協賛スペースで専用ブース展開できるメニューまで用意されている。オリッサ州は豊かな鉱山資源を誇り、2016年に州都ブバネシュワールはインド政府主導よる「スマートシティ構想」開発都市として選ばれた。インド国内に進出を考えている日本企業や、インド企業にとっても協賛・広告タイアップは活用できるのではないかと思う。

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日本側の窓口はこちら

注:記載した情報は2017年9月末時点のもので、情報、URL等は予告なく変更される場合があります。
参考記事:The Dance Times April 05, 2017 稲田奈緒美「Attakkalari INDIA BIENNIAL 2017

文=小林洋子
写真=オディシャビエンナーレ公式ページより転載許可

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