東インドのオリッサ州は、芸術や工芸品の宝庫だ。豊かな山と鉱物資源に恵まれ、州人口の1/4が山岳先住民族である。今回は、ブバネシュワールを拠点に、職人さん達の工房を訪ねてまわった。

オリッサ州の主要都市カタック/Cuttackは、ブバネシュワール/Bhubaneswarより約30Km北に位置する、シルバーフィリグリー/Silver filigreeで有名な街。シルバーフィリグリーとは、こちらの地元の言葉では‘Tarakasi’の名で知られ、日本では銀線細工と呼ばれているものだ。

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向こうが透けて見えるほど細かい。左はドバイからの注文で作った花のブローチ。

穏やかなマハナディ川とカダジョリ川。大きな川に南北を挟まれた中州にカタックがある。街としての歴史は古く、12世紀頃からブバネシュワールに州都が移る1948年まで、この辺り一帯の中心地として栄えていた。シルバーフィリグリーの技術はイスラムのムガル帝国が支配した時期に伝わり確立したといわれている。

ブバネシュワールに拠点を置くNPO、ムドラーファウンデーションの紹介でシルバーフィリグリーの職人さんと会えることになった。

だんだん暗くなっていく夕方の空を眺めながら、カタックへ向かった。約束は夜の6時。職人の息子のアナンが待ち合わせのチャンディ寺院まで来てくれた。ここからの道は細くてバイクしか入れないから、といってバイクの後ろに乗るように言われる。すぐ近くだという。

旧市街は入り組んでおり、細い道に牛や人間が交差し、空き地にはゴミ山があったりする。喧噪を抜け、路地裏に入ったところにその家はあった。密集した古い住宅街は、家と隣の家とがくっついている。カラフルな原色の水色が塗られた家だった。お父さんは一番奥の部屋を工房としているようだ。3畳ほどのスペースに机を置き、あぐらをかいて座っていた。

職人の名前は、ガレッシュ・サハさん。穏やかでとても優しい目をしているのが印象的だ。彼は46年間この仕事をしており、今は20人の弟子を持っているという。

シルバーフィリグリーの発祥は紀元前2,500年の古代エジプトまで遡る。銀を線にし、線で形を作る。鋳造による成形ではなく、手と工具を使い、繊細な銀の線を少しずつ結合させて成形していくシルバーフィリグリーの技術。

今日見せてくれるという技を写真に撮ってもいいか聞く。OKをもらい、なにか作ってくれることになった。「フラワーの形を作ってみるよ。」

本来の工程は素材であるかたまりの銀を溶解し、ワイヤー状・線状にするところから始まるという。このときは、細長く平たいワイヤー状になったものが既にあり、それを使って作って見せてくれた。

まず火をつけ、銀を熱してから、成形していく。等間隔にカーブをつけて曲げていく。先の細いペンチの先を使い、花の形をつくり一度のばしてから、火を当てる。そしてまたピンセットで挟んで隙間をつめながら、花の形をつくる。

花の形ができたら中心に円を入れる。白い石灰のような固形物(ケミカルと言っていたがおそらくホウ砂)を溶いた水に軽く浸し、境目に板をあて、全てが結合するよう火をあてて固める。後で板は外され、花のフォルムの完成。ここまで15分。

曲がったストローのような空気孔を口にくわえて、バーナーから出ている火を当てる。流れるような技だった。それに、花びらを狂いなく等間隔に曲げる作業の手早さと正確さにびっくりした。

今の手持ちの作品を見せてもらったら、驚くほど細かいレースの編み目のような模様で作ったものが多い。これらはすべて、手作業だ。
「すごい目をしていますね。細かいから見えないのでは?」というと、ガレッシュさんはにこっと笑った。

「私たちは暮らしが貧しい。ここインドの伝統工芸品で生活していくのは難しいことになっている。」
この仕事が好きか、楽しんでやっているかと聞いた。「昔はじめた時は、趣味のような感じで楽しかったが、今は生活のため、シルバージュエリー制作をしている。
うーん、楽しいとは言えないね。この仕事はとても時間がかかるのに安いんだ。」

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例えば、それぞれの作品にここまでかかった時間を教えてもらった。参考に職人さんの売り値と、市場で売られているマーケット価格をきく。実際にはここからも買い叩かれたりするのかもしれない。

◆ドバイからの注文の花のブローチ(記事冒頭の写真、左)
12時間:職人の売値 1,500ルピー ドバイのマーケット価格 5,000ルピー
◆ボウシのような形のペンダントヘッド(上の写真、1番左)
7時間:職人の売値 600ルピー インドのマーケット価格 3-5倍
◆葉っぱのペンダントヘッド
(上の写真、右から2番目)
3時間:職人の売値 150ルピー インドのマーケット価格 3-5倍
(記事作成時:1ルピーは約1.7円)

上の時間、プラス、それぞれに仕上げの時間がかかる。
私が3個ほど選びサンプルに購入したいというと「30分ほどかかるけどいいかな?」とその場で仕上げをしてくれた。

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銀という素材との長い付き合い。道具も体の一部のようだ。

ぴかぴかに磨かれた、シルバー。目を凝らして、その手がつくった技を近くで見る。あまりに凝縮した手作業の情報量。この地域で500年以上も伝えられてきた技と歴史が透けてみえる。

彼が描いたデザイン画は伝統的なモチーフであるピーコック(孔雀)といった鳥や、花や葉、蔓をモチーフにしたものなどクラシカルな絵柄。移り変わりの早い現代において、人々が欲しいと思うデザインを提案したり、機械化された商品とハンドクラフトの商品を差別化をするようなブランディングをすることは職人業とはまた別の才能だ。

その繊細な技術で人々を魅了していた手工芸の装飾品だが、彼らは今、安価なジュエリー、機械でつくった雑な作りのシルバーフィリグリーなどと同じマーケットの土俵で戦うことを強いられている。

最後に「海外のジュエリーデザイナーとコラボレーション出来るかどうか?」と聞いたら「ウェルカム!」だそうだ。

写真・文=小林洋子

銀細工の職人さん
Cuttack / Silver Filigree
Name : Mr. Garesh Saha
Landmark
 : Maa Cuttack Chandi Temple

※ボウシのような形と葉っぱのペンダントヘッドのサンプルをバンガロールのオフィスに置いています。
インドのバンガロールにて実物を見たい方は、sarasvatmagazine [@] gmail.com までお問い合わせください。

情報提供 Mudra Foundation

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