どこか浮世離れした風貌のテイヤムはVelutha Bhootham Theyyam。 名前は白い幽霊を意味する。儀式中に走って山へ入り、戻ってくる。神殿の周りをひたすらぐるぐると走る。

希少で圧倒的な体験に辿り着くのはそう簡単ではない。
昨晩の夜、車の運転も下手であまり信用のできなかったガイドの男の子が、一晩中との約束をすっぽかし早々と帰ってしまった。
困っていたとき運良く出会った紳士は、彼自身もテイヤムを舞うテイヤッカーランだった。朝の4時過ぎに、けっこう遠い最寄りの鉄道駅まで私たちを送ってくれ、なんとか帰れた。

それでも体験を忘れられず、滞在はあと1日。もう1箇所見てから帰りたいと、インターネットで調べるも、現地語を読めないのと、完全に正確な情報が無いことにより、自分たちでは目的の場所を見つけることができない。適当に見当をつけてダメもとで行ってみるか、と話していた夜10時。こちらも昨晩出会った地元写真家の2人組の1人が、出していたメールに返信をくれた。
彼のおすすめのテイヤムは夜中の3時がピークタイム、現地までは2時間のドライブ。間に合う。今夜はもっと北の、カナンガッド/Kanhangadへ。

海沿いの町カナンガッドでは、農業と漁業の第一次産業で生計を立てている人が多い。その農村地区で行われた、様々なテイヤムの演目内には、祭礼の参加者が米を手にし、一斉に寺院内に投げ入れる場面が幾度となくある。深夜だけれど元気な子供達もたくさんいて、今日はこの地区にとって特別なのだろうと思う。

鬼気迫るシヴァ神のBhairavan Theyyam。
Bhairavan は恐ろしいの意。破壊と再生の神であるシヴァ神。銀色のEye Coverで目を覆っている。テイヤムは小さな穴からしか外が見えていないにも関わらず、激しく動きまわる。重要な奉納式のような場面。代表する礼拝者が行列になり供物の米をテイヤムに渡すと、ひと掴み返す。ここでも見ている人を含め参加者全員に配られた米は、合図をもって一斉に寺院内に投げ入れられた。シヴァ神は、火に米を投げ入れる。

その後、テイヤムは荒々しい動きで羽をむしり、ニワトリを殺した。切り落とした首と、溢れ出る血を祭壇に供える。首を取られた雄鶏は、寺院外のすぐの空き地に投げられ、首無しでしばらく動いてから力尽きた。殺した手を浄化するために、撚った紐のようなものが焼かれ、手のひらに火が注がれる。


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この儀式で重要なのは ‘homam’(ホーマ、護摩焚き)とのこと。

ホーマはとても起源が古く、ヒンドゥー教の基盤となっているバラモンのヴェーダ祭式に根ざしていると言われる。のちに古代仏教とジャイナ教によって採択され、ホーマを起源とする儀礼は現在の仏教、特にチベットと日本の一部で引き続き行われている。人間は火を通して神に捧げものをし、その代わりに神々が恩恵を与えてくれるよう期待する。

自然とのつながりが深いこの地区の人々は、この日の祭礼に対して、神聖な気持ちを持っているようだった。豊穣の祈りだけでなく、人間にいのちを捧げる動物に対しても畏敬の念を抱き、日々の殺生に対する祈りも込められているのではないかと思う。15歳から19歳の少女のグループと仲良くなった。聞いたのは『テイヤムは私たちの文化。生活の一部だから、このお祭りが好き。』という言葉。この日は満月だった。

Pottan Theyyam、この演目は見たかったのだが、テイヤムが現れるのは朝8時になりそうだという。残念ながら時間がないため今回は見るのを諦めた。ストーリーが面白いので紹介したい。

Story
”Pottan Theyyam”
神話は、シヴァ神/Lord Shivaとインドの思想家シャンカラ/Sree Sankaracharyaにまつわる話。
シヴァ神は、知恵の最高位に就こうとしていたシャンカラの道徳倫理を試そうとした。シヴァ神は、妻パールヴァディ、家臣のNandikeshanと共に、ダリット/Dalitとして変身し、シャンカラの前に現れる。ダリットとはカースト制度の最下層民。当時は穢れた存在とされていた。穢されたくないシャンカラは、自分の前から去るように言う。
しかし、ダリッド(シヴァ神)は、こう尋ねる。「もし、体を切ったら私たちは同じ色の血が出ます。それで私たちは同じ人間として何が違いますか?」議論ののち、シャンカラは自分の思い込みや認識が間違っていると気づく。

ダリットとして正体を隠したシヴァ神が、カースト制度の無意味さを暴露し、偏見に惑わされないよう警告する。人には同じ赤い色の血が流れているという、人類の普遍的な教えが説かれるテイヤム神話。何世紀にもわたってヒンドゥー社会が中心となっていたインドでこの神話が途絶えることなく存在していることは、驚くべきことなのだ思う。

Guide

1.
Payyanur (Ezhilode)
Velutha Bhootham Theyyam
11th Mar, 2017

2.
Kanhangad (Kottacheri)
Theyyam
1. Bhootham
2. Puthiya Bhagavathy
3. Kudiveeran
4. Bhairavan
12th Mar, 2017

写真・文=小林洋子

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