ムドラーファウンデーション インタビュー3

自然に集まってくるもの。それは時間がかかるけれども面白い。オリッサという場所に世界各地から集い、自由で創造的な表現の場を。

ムドラーファウンデーションのメインスタッフであるスマランさんと小野雅子さんに、これまでのオディシャビエンナーレの様子と、今年に開催予定の『オディシャビエンナーレ2017』についてお話を聞いた。

オディシャビエンナーレ
公式ページ
古典舞踊やコンテンポラリーダンスなどのパフォーミングアートを軸に、映像、ファインアート、デザイン、ファッションなど、さまざまな分野のアーティストたちを召集してブバネシュワールで行われる2年に一度の総合芸術祭。2012年のプレイベントからはじまり、これまで2013年、2015年と行われ、2017年(10月28日~11月5日)の開催で第3回目となる。

オディシャ・ビエンナーレ 2017
日時:2017年10月28日~2017年11月5日
場所:インド、オリッサ州、ブバネシュワール
MINDTREE / MOPA studio
(記事のいちばん最後に詳細あり)

2013年のフォトギャラリーはこちら
2015年パフォーマンスの様子(写真の順序はランダム表示)

Photo by Mudra Foundation
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国際的な感覚を得た若い人が育っている
オディシャビエンナーレは国を越えて文化を交換するプラットフォームであり、オリッサの若い人が自分達の文化を知る良いきっかけとなる場である。
2013年に学生ボランティアスタッフとして参加したのを機に、ムドラーファウンデーションのメインスタッフとして活動する、22歳のスマランさん。自身の経験として「初めて参加した時には、地元オリッサにあるアートやカルチャーの事をほとんど知らなかったが、オディシャビエンナーレという場を通して知識を得ることができた。」と話す。

今でこそ、英語を使い、普段からE-mailやチャットで日本のプロデューサーともイタリアの写真家ともコミュニケーションをとり、業務を進めているスマランさんだが、2013年の当時はオリヤー語しか話せなかったという。その後常駐のスタッフとなり、ドクラのフォトブックのプロジェクトでは、リサーチや村で職人へのインタビューを行ったり、英語での文字校正や編集のアシスタントといったことまで幅広く能力を発揮、もともとある才能を磨いて、ぐんぐんと力を伸ばしている。

オリッサの青年たちは心優しい気性で、どちらかと言えば気がつくタイプの感受性の高い人々だ。スマランさんのような人が育っていくことも、やりがいを感じる理由の1つになっている、と雅子さんはいう。

今回のビエンナーレで、スマランさんはボランティアではなく、あるセクションのディレクションを担当する。彼の下にもボランティアがつく。さらなる成長が楽しみだ。

インターンシップ募集はこちら
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本当の意味での交流、コラボレーション
オリッサの若い人はさぞ刺激になるだろうと思うが、それに自ら気づくのはまだごく少数だという。
だが、こうした機会に色々な国の人に囲まれて、その視点を共有すると、例えば、真鍮工芸のドクラは素晴らしいと外からの人が言うと、今までそこにあっても気にも留めなかった地元の人がそれに気づくといったことが起こる。2013年より、ほんの少しずつだが変化が生まれている。

オディシャビエンナーレの来訪者は数で言うとインド人やオリッサの人が主であるが、彼らに利点があるだけでなく、日本人の来訪者やアーティストにとっても「ミューチュアルシチュエーション(相互にとってよい)、Win – Winだと思います。」「インドと日本は真逆の世界だけれど、お互い学ぶ事が一杯ある。」と雅子さんは言う。

経済の視点で見ても、今後の日本はインド人をお客さんとして(日本製品のサービスの顧客や、観光客として)対応できるようにならないと、これからの時代は難しくなっていくということは、最近ではよく言われていることだ。

「なんでも友情だったり愛で始まる関係がいちばん美しいと思う」
インドの社会は経済格差も大きいので「オディシャビエンナーレに遊びに来たら、はじめは相当ショックだと思う。」「でも友達になって、友情が生まれたら、将来なにか一緒にできる。インド人だけでなく日本人にも活用してもらいたい。」と雅子さんがいう理由は、他のビエンナーレに比べて、みんなと話をする時間が多いからだという。

ワークショップには誰でも参加できる。パフォーマンス後に、アーティストが観客や批評家と交流する場がある。「だって田舎だからやることがない」と笑って、「インドの人と、語り合ったり。お酒のんだり。今年は企画にスペイン人もいるので、スペインの友人も来るかもしれない。一体感はすごくあるし、ネットワークは広がると思います。」と、ビエンナーレの雰囲気を教えてくれた。

「意見はぶつかったりするけれど、ぶつけながらも作る」
そして「どこにでもあるビエンナーレだったら、私は一切、やる気がない。日本のキュレーターや批評家もいるけど、ここでは意見もきいて、みんなが口を挟む。日本の批評家がいいと言ったからって、インドの人がつまらない、と言うのはいいと思う。」「私はビエンナーレをすごく大きくしたいというより、時間がかかるけれども自然に集まってくるもの、天然のものが一番強いと思っているんです。」いいものはいい。そう言える雰囲気がある、という雅子さん。

前回までは雅子さんが中心になって仕切っていたというビエンナーレ。2017年の企画は雅子さんの夫のマナスさんと、日本人チームの松尾邦彦さんが中心になって動いている。(日本側はこちら
プログラム・運営に関しても、相互に面白いと思うバランスで、意見をぶつけ合う。すでに多くの時間を使って話し合われた事は、今年も入場料をフリーにすると、いうこと。ここオリッサでは来場者が芸術にお金を払うという土壌がまだないのである。(過去2013年と2015年ともに、入場料フリーで運営。)それでも動員数は2015年の開催時には1日当たり250-300人の来場者があった。2017年は1日当たり400-500人を期待している。

コンセプトは「オリッサという場所に世界各地から集い、自由で創造的な表現の場を。」
ビエンナーレのプログラムを見ると、日本とインドを中心にアフリカやヨーロッパからも集った国際的に活躍するアーティストのパフォーマンスを、伝統とコンテンポラリーの垣根なく鑑賞できるようだ。日本のアーティストにとっても、他国のアーティストや観客と触れ合う良い機会だ。ビエンナーレ期間内に行われるワークショップやイベントに参加して、是非グローバルに交流するチャンスを得てほしい。

過去のワークショップの様子

Guide
オディシャ・ビエンナーレ 2017
日時:2017年10月28日~2017年11月5日
場所:インド、オリッサ州、ブバネシュワール
MINDTREE / MOPA studio

(出演するアーティストや内容はホームページにて随時更新されている。
現時点でアナウンスされているのは以下)

Theme
Body ± Cloth =

パフォーマンス (50音順/a-z)
・Antymark(VJ、プロジェクションマッピング)
・Fujima Rankoh 藤間蘭黄(日本舞踊)
・Gombe Cultural Troupe(アフリカン)
・Hemabharathy Palani(コンテンポラリーダンス)
・Masako Ono(オディッシーダンス、コンテンポラリーダンス)
・Moya Michael(コンテンポラリーダンス)
・Ronita Mookerji(コンテンポラリーダンス)
・Rui Rui 累累 ルイルイ 藤田善宏/丸山和彰(コンテンポラリーダンス)
・VEDANZA(コンテンポラリーダンス)

ワークショップ
・全ての参加アーティストによるワークショップ、マスタークラス

開発プログラム
・ブバネシュワルのシーン全体の底上げのため、舞台芸術を裏から支える技術者や批評家を育てるプログラム
・照明作家、音響技術者、映像作家による、基礎知識から最先端技術までを学ぶことのできるワークショップ
・ダンス批評家・ライターなどを招聘し、ダンス批評のワークショップ
・日本語を学ぶブバネシュワルの学生を募集し、同行する通訳・コミュニケーターをサポートする

アーティストインレジデンス
・Ichiko FUNAI / 船井 伊智子(現代美術家・衣装家)

ミーティングカフェ
・観客、参加アーティスト、専門家、技術者らとフランクな雰囲気で交流が楽しめる「Cafe」をメイン会場に設置

文化遺産ツアー
・世界遺産「太陽寺院」や、ウダヤギリ、ラリットギリなど周辺の仏教遺跡などへ、専門家のガイドによるツアー

ODISHA BIENNALE in Japan
・文化服装学院とのコラボレーション企画として、「オディシャビエンナーレ in Japan」(仮)を、翌年2018年11月に実施予定

募集中
・ODISHA BIENNALE 2017 のテーマであるショー ‘body± cloth=’に出演する若手ダンサー、振付け師の公募(2017/07/31締切、選考あり) 詳細
・インターンシップ 詳細
・ボランティア 詳細

オディシャビエンナーレの目的(資料より)
1.
これまで世界各地の美術祭における、アートと呼ばれる美の価値観は西洋的な美意識・市場価値により牽引されてきました。しかし、インドや日本などのアジアの芸術は、大衆文化や日常性を併せ持つものから離れることができないリアリティと芯の強さをその美の中に含んでいます。「オディシャビエンナーレ2017」では、インド文化が持つ様々な美意識を軸に、インドと日本、インドと世界各国の美の基準が混ざり合わせることで、既存の美術の枠を越えてグローバルな視野をもった新しい美の価値創造を目標にしています。
2.
『オディシャ・ビエンナーレ』では、毎回地元オディシャのアーティストや伝統文化の職人と海外アーティストがコラボレーションを試みます。
それは、オディシャ州のアートを国際的に紹介すると同時に、オディシャ州の人々、とりわけ未来を担う若者や子どもたちが国際的な現代アートに触れるためのプラットホーム作りをおこなうのが狙いです。また、孤児院や障害者施設でのワークショップをおこない、社会環境への働きかけにも積極的に取り組んでいきます。
3.
『オディシャ・ビエンナーレ』の開催をきっかけに、オディシャという地域コミュニティの中に世界中のアーティストが積極的に参画し、 芸術分野での活発な意見交換や技術の向上を促し、グローバルとローカルコミュニティーを密接にリンクさせていきたいと考えています。そして、オリッサ州が持つ貴重な文化的資源の価値を再認識し、有意義な文化資源開発を進めることにより、新たな発展への国際的なアイデア作りを模索します。その実践的なマーケティングとネットワーク作りを続けています。

文=小林洋子
写真=ムドラーファウンデーション

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