東インドのオリッサ州の手仕事の潜在的な可能性について考えるにあたって、確認しておきたい。ここ近年で注目されるようになった「ソーシャルビジネス」の定義はというと、社会問題を解決するビジネスのことである。
インドの社会問題といえば、1つに貧困問題が挙げられる。
今回の取材で見たオリッサ州はインド全州でワースト6位に入っている。農村部エリアは都市部と比べると、特に収入が少ない。(*1)
「資本主義は強いものが弱いものを飲み込み、淘汰されていくシステムである。現代にとって時代遅れとなった文化は、消えていく運命にある。」
先進国で一般的な教育を受けたら、こう思う人が多いのではないか。これがいまの世界のスタンダード、暗黙のルールになって久しい。

しかし、上の意見を踏まえたとしても、変えなければいけない現実もある。
グローバリズムが広がった世界の片隅で、社会の構造上の理由から、貧困から抜け出せないループにいる者たちは、実際にそこにいるからだ。
貧困家庭に生まれたら子供は働かざるを得ない。
働かず学校へ行けたとしてもインド都市部のエリートや先進国と比べると、教育の質には差があり、それではこの世界のルールの競争の中で生き延びるための知識を充分につけられない。
「不可触民」という言葉を学生時代に社会科の授業で習ったが、2017年現在でインド社会には相当な名残りがある。法律上では差別を禁止されているものの、社会構造としてのカーストの差が根深い。

一方、私の生まれた日本は、多くのモノで溢れる世界だ。
日本のファッションビジネスの業界において、ピープルツリーやマザーハウスはフェアトレードブランドの先駆者として知られている。主に途上国へ手仕事を定期的に発注することにより、アジアの農村部の人々や女性の雇用を作っている。
日本を代表するブランドである無印良品もインドでの無農薬で栽培したオーガニックコットンの買い付けを年々徐々に増やしており農家の安定収入を支えている。
世界をもっと良くしたいと思うビジネスリーダー達は、フェアなトレード(公平な価格で買い取る)から一歩進んだところで、お互いにビジネスを成立させながら社会問題を解決するという方法をとっている。
ほかにも、環境に配慮し、エシカルな商品を作るブランドや企業が日本でも沢山生まれている。成功しているものは、フェアトレードの商品だからという観点だけでなく、商品のデザインの良さや品質をもって市場で支持されているのが特徴だ。
もちろん、ビジネスをするわけではなくともいち消費者として出来ることはある。誰も不幸にしない商品を選ぶ、ただそれだけだ。

ここの人達と一緒に何ができるだろうか?
既にそこにある技術を生かせないだろうか?
例えば、布。インドには沢山の面白い布があり、それだけで魅力的でポテンシャルが高い。
ジョドプールにはハンドブロックプリントの美術館を持つアノーキ。インドの都市部で人気の高いファブインディアも、北のラジャスタンのハンドブロックプリントをフィーチャーしたファッションブランドだ。
オリッサ州はまだそういった分野において開拓されていないようだ。
記事で紹介した手織り布のイカット、銀線細工のシルバーフィリグリー、それに真鍮工芸ドクラなどをはじめ、歴史に培われた技術を伴う村は数多く、未だ存命。手仕事の潜在的な可能性が見える。ただ、幸福な出会いがなければ死に絶えていくかもしれない。
写真・文=小林洋子
関連データ
(*1)2013 貧困率
インド全土 21.92% オリッサ州 32.59% インドの全州の中で6番目に低い。
オリッサ州 農村部 35.69% 都市部 17.29%
インド政府が定めた食料消費を中心に最低水準の生活を維持するために必要なコストをもとに算出される。
Source : Number and Percentage of Population Below Poverty Line
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