わたしが住んでいるバンガロールで話されている地元のことば、カンナダ語は、どこかいなかっぽい。
あけっぴろげに言い放つ濁音と、鼻にぬける音が、日本の地方の方言のように聞こえるときがある。ことばには、その土地に住む人たちの気質をあらわすところがあるんじゃないかと思っているので、口ごもりながら言いますと、バンガロールって風光明媚ないなかだったのではないでしょうか。
いまではIT都市としてビジネスマンや若い起業家があつまり、大都会です、みたいなところがあるけれど。いや、そういう部分もあるけれど。
いなかだったからこそ、守られてきた食文化があるんじゃないのかと、バンガロールを地元とする人たちの食をこっそり観察している。
英語読みのバンガロールという呼び名が日本では通りがいいけれど、こちらではカンナダ語読みのベンガルール/Bengaluruに戻していきましょうというふうになっている。
このベンガルール「茹でた豆の街」という意味説がある。むかし狩で迷った王さまが、老婆に茹でた豆と水をもらって空腹を満たしたことに感謝を込めて、名づけたという。
茹でた豆にどんな味つけがされていたんだろうかと、想像がふくらむのはともかくとして、バンガロールでも南インド全体でも豆をほんとうによく食べる。
そして、食べすぎてお腹にガスがたまることをとても気にする。思うことはただひとつ、ほどほどに食べたらいいんじゃないのかな。
さすがに豆をたくさん食べる人たちだけあって、さまざまな豆づかいを知っている。チャナダルやウラドダルなどの乾燥豆を油でカリカリに炒めて、他の食材とあわせるという、日本人にはなじみのない調理法もある。
例えば、サブジのようなポリヤルという野菜炒めや、タマリンドライスやレモンライスなどの味つけごはんに、この豆のカリカリづかいをする。ナッツで歯ざわりと味のアクセントをだすのと同じような感覚だ。今回教わった、クスクスの親戚すじのようなウプマ/Upmaという料理でも、カリカリさせる。
教えてくれたお母さんは、生まれも育ちも、親もその親もバンガロールという、生粋のバンガロリアン。米文化の南インドらしい米粉を使ったうす焼きパン、アキロティ/Akki Rotiと、スージ/Sooji(セモリナ粉)を使ったウプマ/Upmaに、アべカル/Avarekaluという豆をいれて作るアべカルウプマの2品を教わった。どちらとも朝ごはんや、ティファン(軽食)として食べられることが多い。
**********
1. Akki Roti 米粉のうす焼きパン
2. Avarekalu Upma アべカル豆入りウプマ
**********
Recipes
1. Akki Roti 米粉のうす焼きパン
材料 6-8枚分
米粉 2カップ
玉ねぎみじん切り 1カップ
コリアンダーみじん切り(葉のみ) 1/2カップ
グリーンチリみじん切り お好み
クミンシード 小さじ1/2
グラインドココナッツ 1/2カップ
塩 小さじ1~お好み
水 適量
サンフラワーオイルまたはココナッツオイル 適量
つくり方
①水と油以外の材料を全部まぜあわせる。
②①に水を入れ、生地を耳たぶのかたさくらいにする。
③生地を野球ボールくらいの大きさに丸め、カダイ(両手中華なべのような、底が丸いなべ)に少量の油を塗り、生地を押しつけながら、カダイにうすく伸ばしていく。(まだ火はつけない)
④3-4ヶ所、指で穴をあけ、穴の部分と、生地のまわりに油をたらっと注ぐ。
⑤カダイにフタをして、弱火で3分くらい焼き、フタをとり少し斜めにしてサイドもよく焼く。
⑥そのまま食べてもいいし、※チャトニプディとギーをつけて食べるとまたおいしい。
※チャトニプディ/ Chutney pudi とは、赤チリや、ウラドダル、チャナダル、カレーリーフなど(家庭によって色々)をよく炒ってから挽き、塩、ジャガリ(きび糖)、ドライココナッツなどを加えて作るパウダー状のもの。
なべに生地をのばしていくときは、鍋を傾け、左手でなべを回しながら手のひらでうすくのばすようにするといい。フライパンで焼くこともできるけれど、立ちあがりのシェープを作りたいのならカダイのようなタイプのなべがおすすめ。
2. Avarekalu Upma アべカル豆入りウプマ
材料
Sooji(セモリナ粉)1カップ
ギー 小さじ1/2
クミンシード 小さじ1
ブラウンマスタードシード 小さじ1
ウラドダル 大さじ1
チャナダル 大さじ1
カレーリーフ(葉の部分のみ)1/4カップ
玉ねぎみじん切り 1カップ
青チリみじん切り 2-3本分
麺棒などで、つぶしたしょうが 親指大
サンフラワーオイル 大さじ2
アべカル豆(さやからだして柔らかくなるまで煮たもの)1カップ
細かく砕いたブラックペパー 小さじ1
アべカル豆の残った茹で汁と水 2と1/2カップ
塩 小さじ2~お好み
グラインドココナッツ 1/2カップ
コリアンダーの葉 1/4カップ
インドレモン 1/2個(お好み)
つくり方
①鍋にギーを入れて温め、セモリナ粉を入れて、色がつかないように気をつけながら中火で3分くらい炒る。炒り終わったら、皿に移し、熱をさます。
②底が深いなべに油を温め、クミンシード、マスタードシード、ウラドダル、チャナダルを入れて炒める。ウラドダル、チャナダルの色が茶色に変わったら、カレーリーフ、玉ねぎ、青チリ、しょうが、塩少々を入れて、玉ねぎが透き通る程度に炒める。
③茹でたアべカル豆とブラックペッパーを入れて炒め、豆の茹で汁+水を注ぐ。沸騰したら、塩を入れ、弱火にしてすばやくかき混ぜながらダマにならないように①を加える。フタをして、3分くらい弱火で火を通す。
④火を止め、最後にコリアンダーとグラインドココナッツを入れて混ぜあわせる。お好みで、レモンをしぼる。
⑤カップで型どりをして、できあがり。
アベカル豆(Avarekalu)はフジ豆、千石豆のこと。日本では、若い豆のさやごと使う料理が多いが、バンガロールでは、シーズンになると完熟した豆の中身を汁物や、アキロティなどにも入れて調理する。
農家の家系の彼女が結婚した男性は、ブラフミンの家系だったので、同じバンガロール出身とはいえ、環境も食べてきたものもまったく違うのだという。
このウプマにしても、彼女の実家では、トマトやターメリックを入れて、ほんのり色をつけるけれども、嫁いだ先では白を好むので、食材がなるべく焦げないように火を入れ、きれいな白に仕上がるように気をつける。
舅、姑と一緒にくらし、ノンベジだった彼女が舌をたよりに、この家に伝わるベジタリアン料理を覚えていったんだそうだ。からっとした、太陽のような笑顔がまぶしい彼女が作りだす料理の数々は、すっかり手なれた彼女の味になっている。
バンガロールはいなかだったので(しつこいです)名所旧跡が少ないし、街に中毒性がないので、旅好きの人たちはつまらないと通りすぎて行ってしまう。
ただ、食の視点から見ると、人があつまるところ食ありで、インド各地の料理をだす店がいろいろある。それに、友達の家へ遊びに行くと、それぞれの出身の家庭の味をごちそうになるなんてうれしいことがおきる。
このバンガロールがあるカルナータカ州は、玉ねぎニンニクなどをつかわないピュアベジタリアン料理の聖地、ウドゥピ。アラビア海に面した海の幸を味わえるマンガロール。西ガーツ山脈にあり、豚肉やタケノコなども食べる山の民が住むクールグなど、州内に特徴的な食文化圏が散りばめられている。
食べものに興味があって、タフな胃腸といい加減なココロをもっているなら、バンガロールを拠点にあちこち細かくまわってみることをおすすめする。
写真・文=やましたのぶこ (spice+arts)
この投稿はEnglishで表示できます。