今回一緒にこの旅行につきあってくれた友だちの紹介で、もう一人ちがうお母さんにも料理を教えてもらうことができた。
アラビア海からくる湿気と暑さで、汗をかきかき家に着くと、お母さんが自家製のレモンジュースをどうぞとすすめてくれる。インディアンレモンとフレッシュミント、ジンジャー、きび糖をあわせたシロップに、よく冷えた炭酸水をたっぷり注いでつくるこのジュースを、ごくごくと飲みほしながら、お母さんの料理への期待が一気にたかまる。
庭でとれたココナッツからつくるココナッツオイルをはじめ、手間をかけていろいろなものを手づくりするお母さん。ここの家族は、おいしさだけではない、そのまわりの湯気のようなモクモクとした想いがたちこめた食の時間を過ごしてきたんだろうなと、台所に立つお母さんの後ろ姿をみながら思う。
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1. Rava Fish Fly/セモリナ粉を衣にしたカリカリ魚フライ
2. Mangalorean Chicken Sukka/チキンスッカ ココナッツたっぷりマンガロール風ドライチキンカレー
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Recipes
1. Rava Fish Fly/セモリナ粉を衣にしたカリカリ魚フライ
材料
キングフィッシュ(サバでもOK) 輪切り5切れ
【マリネ液】
チリパウダー 小さじ3
ターメリックパウダー 小さじ1
タマリンド水 1/2カップ(下記参照)
塩 小さじ1〜お好み
Rava/Sooji/セモリナ粉 適宜
あげ油(ココナッツ油がオススメ)適宜
つくり方
① よく洗った魚を【マリネ液】に漬け込み、1時間冷蔵庫に置く。
② 魚の両面にセモリナ粉をよくまぶす。
③ たっぷりの油で片面3−4分ずつ、両面を焼いてできあがり。
【タマリンド水のつくり方】
材料
乾燥タマリンド ピンポン球大
お湯 1カップ
水 1/2カップ
つくり方
① 乾燥タマリンドにお湯を注ぎ、10分くらい置く。
② お湯でふやかしたタマリンドは手で揉みほぐし、ざるでこす。
③ ざるに残ったタマリンドにさらに水を加え揉みほぐし、もう一度ざるでこしてできあがり。
2. Mangalorean Chicken Sukka/チキンスッカ ココナッツたっぷりマンガロール風ドライチキンカレー
材料
【スパイスペーストA】
ギー 大さじ2
コリアンダーシード 大さじ1と1/2
ホールブラックペパー 10粒
クミンシード 大さじ1/2
フェネグリークシード 小さじ1/2
ホールシナモン 3センチ
クローブ 5−6個
ポピーシード 大さじ1/2
チリ お好み(ここでは色つけ用のチリ10本、辛み用のチリ3本使用)
玉ねぎ 大さじ1
にんにく 10片
しょうが1/2片
タマリンド水 小さじ2(ぬるま湯にタマリンドを浸したもの。酸味づけ)
水 1カップ
【スパイスペーストB】
ギー 大1と1/2
カレーリーフ 20枚くらい
玉ねぎ 大1個
ココナッツの果肉を削ったもの 大盛り1カップ
ターメリックパウダー 小さじ3/4
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ギー 大さじ3
玉ねぎ 中1個
カレーリーフ 30枚くらい
皮なし、骨つきの鶏肉750g
塩 大さじ1
水 1/2カップ
フレッシュコリアンダー
下準備
【スパイスペーストA】
① 玉ねぎ、にんにく、しょうがをスライスする。
② フライパンでギーを温め、コリアンダー、黒コショウ、クミン、フェネグリーク、シナモン、クローブ、ポピーシード、チリ(色つけようの)を入れ、焦げないように炒める。
③ ②の鍋に①も加えさらに炒める。火が通ったら、冷ましておく。
④ ミキサーに③とタマリンド水、水を加え、ペーストにする。
【スパイスペーストB】
① 玉ねぎをスライスする。
② フライパンでギーを温め、玉ねぎ、カレーリーフ、ターメリックパウダー、ココナッツを炒める。火が通ったら、冷ましておく。
③ ミキサーで②をペーストにする。水分が足りない場合は、水を少し加える。
つくり方
① 深めの鍋にギーを入れ、スライスした玉ねぎを炒め、次にカレーリーフを入れてさらに炒める。
② ①にぶつ切りにした鶏肉と塩を入れて炒め、【スパイスペーストA】を加えて10分くらい煮込む。
③ ②に【スパイスペーストB】を加え、水1/2カップを加え、フタをして弱火で30分煮込む。ときどき、焦げつかないようにかき混ぜる。
④ 火を止め、細かく刻んだコリアンダーをたっぷり加えたらできあがり。
ほかにもいろいろ教わりました、食べました。
その中でとくに前のめりになったのが、Patholi/パトリ(タイトル写真)というオモチ。 主にお祭りの時に食べられるターメリックの葉でくるんだ、まさしくオモチ。絶対オモチ。
水にひたした米を挽いて、ペースト状にして皮をつくり、けずったココナッツの果肉とジャガリ(キビ糖)、白ごま、カルダモンパウダーをあわせた餡をのせ、庭でとれた新鮮なターメリックの葉でつつんで、蒸してつくる。中身があんこだったら、柏餅みたいだ。
米がある。大きい葉っぱがある。くるんでみよう。蒸してみよう。と、どこの人たちも思うんだろうか。思うんだろうな。
今回お母さんたちに教わった料理の多くには、ココナッツがたっぷりと使われていた。どちらのお宅も庭にココナッツの木があって、実から果肉を削りだす。
この作業、手間がかかります。
熟して茶色くなったココナッツの外側の繊維質の皮をむいて、かたい殻で覆われた中身をとりだし、その殻を専用の包丁でパーンと割る。
そのあと、ココナッツのまっ白な果肉を、小さな台の先についた鉄製のギザギザの歯でガリガリと削りだす。
こんなことたいしたことじゃないわよという風にお母さんたちは、その作業を淡々とおこなう。その姿を見ていると、日本のお母さんたちが、かつお節を削るのがふつうだった頃と重なってくる。
日本で手にはいるココナッツフレークやココナッツミルクはパックされているものがほとんどなので、はじめてインドでフレッシュなココナッツを使ったときは、別もののような味のちがいとおいしさにびっくりした。
このココナッツだからこそ北インド料理で多く使われる乳製品ともまたちがう爽やかなコクと旨味がひきだせる。
地域やコミュニティごとの多様なことばが、何百とも何千ともあるといわれているインド。マンガロールという街だけでも、トゥル語、カンナダ語、コンカニ語、ヒンドゥー語などが話されている。
インド全土でことばの数だけ、その奥にそれぞれ自慢のおいしいごはんがひそんでいて、こっちをチラチラ見ているような気がしてならない。
共通言語としてインド全域に広がっている英語は、ファストフードのように手軽で簡単、便利なことばではあるけれど、それぞれの多様なことばは、地域それぞれの料理のようにちがっていて、表現の濃淡も、微妙な意味あいも、そのことばでなくては言いあらわせないことがあるんだと思う。
わたしも方言の中で育ったので、標準語では言いあらわせない行き場のないことばをもてあますときがあるすものな。んだんだ。
ことばと食、カルチャーはべったりとした蜜月関係にあると思っているので、英語の台頭によって、その多様なことばたちが鈍化し、それとともにに地域ごとのおいしいごはんが少しずつ消えていくなんてことにはならないでほしいと、食い意地がはったヨソ者はねがっている。おねがいしますよ。
前編はこちらから
写真=やましたのぶこ/Chaitali Raizada(Taantraa Organic Handbaking)
文=やましたのぶこ(spice+arts)