NEUTRAL BASE セラピスト山下洋平さん インタビュー1
ありとあらゆる人間のからだを診てきたセラピスト山下洋平さんに「見えるからだ 見えないからだ」を教えてもらいます。
山下さんは、関東圏にてまた現在はインドのバンガロールにて治療院を営み、20年近くにわたり、延べ7万人ものクライアントへの施術を行ってきました。
(山下さんのプロフィールはこちら)
鍼灸、手技療法(指圧マッサージ)、運動療法による施術は、クライアントの日常動作による無意識の身体のクセに着目し、心身ともにニュートラルな状態に導くことを目的にしています。施術では、アライメントを整えること、エネルギー調整をすること、癒着をはがすことをしています。
(HPより)
山下さんは、たくさんのクライアントを診てきた経験から、おそらくどこがどうなって、どういった症状がでているか、少しさわって診ただけで分かってしまう。
私も何度もお世話になり、その施術の確かな腕と、日常動作や姿勢に関する的確なアドバイスにいつも助かっています。
プロフィールを拝見すると、太極拳とヨガを通してご自身の腸閉塞を治したという山下さん。治療家として自分自身を治したというのはどういった経験か、そのお話から聞いていきます。
【太極拳とヨガをつかって、内臓の癒着(ゆちゃく)をとることに成功】
Sarasvat (以下S) 山下さんは長年「癒着」*(筋膜の癒着のこと) に注目して施術をされてきたと思うんですけれど、そのご自身の癒着をとったのは、いつのことですか?
Yamashita (以下Y) 自分がはっきり癒着しているってわかったのが14年前の2003年ですね。ほぼとれたのが2009年。2010年で完全にとれました。一番悪い右股関節がとれたんで、そのおかげで腸閉塞が治った。
腸がくっついてたんですよ。それがとれたという。
S それは、特別に何か理由があったっていうわけではなく、生まれてから徐々に徐々にくっついていったっていうことですか。
Y 立ち上がる1歳半の時まで足を引きずっていたって母親がいっていたから、たぶん右足はもともとおかしかったんだろうと思います。生まれた時になんかあって、動きが悪かったんだと思う。それをかばった状態で歩いてたので、お尻がひけて、へっぴり腰の状態になって、股関節周囲が癒着をおこしていたんです。それで、大腸や小腸の動きがひどく制限されて、腸閉塞という病気となって発症したんですよ。
自分の癒着をとろうとしてやっているうちに、施術で見ていたクライアントも、ああ全員、癒着してるわって気づいてきて。
逆に考えていくと、例えば婦人科系の病気とかというのは、筋肉と婦人科系のものが癒着しているとか、骨盤が前傾してぐちゃっと潰れているとか、内臓の癒着の問題がすごく多いということなんです。それを正してやったら、もしかして全部治っちゃうかもしれない。まあ、環境とか色々あるけれど、こちらで出来ることというのは、そういうことになりますよね。
S ご自身の癒着をとるのに、その間ずっとヨガや太極拳を使ったんですか?
Y 使いましたね。太極拳は好きだったんですよね。いまだにすごく好きなんですよ。年中棒切れとか振り回してバカみたいなんですけれど。
S 今日も持っていらっしゃいますよね。
Y ちょっと暇な時間に振りたいなと思って。(笑)
はじめた頃はやっぱり、先生と同じ形ができないんですよ。どうしても。太極拳の場合だと、先生と同じような動きができても、例えば相手がいて技をかけた時に、先生は相手をボーンと吹っ飛ばせても、僕はどんなにやってもできないんですよ。それは何でかなと考えると、やっぱりアライメントが悪いとか癒着していて腰が抜けているとか、肩が上がっちゃっているとか色々含まれているわけですよ。
そういうのがおもしろくてずっと太極拳を追いかけていたんですけど、でも太極拳の先生に追いつこうと思うと10年とか20年とかかかっちゃう。そこを何とかワープできないかなあと思ってヨガを使ったんですよ。癒着をとって早く追いつくために。
S なるほど。
Y ヨガを本当にずっと一生懸命やっている方には申し訳ないんだけれど、僕としては、ヨガを利用させてもらった。ツールだった。結局やっているうちに、ヨガの人たちはこれをやっているんだということがなんかわかっちゃったんですよ。客観的に見てるんで。ヨガの中に入って夢中になってやっていると逆に見えないかもしれないんですけど。
【宇宙とつながっている、それに気づくのがヨガの役割】
S すみません。ヨガについてすこし、基礎知識から教えて下さい。
Y ヨガって、意味はYUJUっていうサンスクリット語が語源と言われていて、それは、むすぶとかつなぐっていう意味です。むすぶのは何かというと、体と心という人もいるんですけれど、それだけではなくて、肉体というのは借り物で、その中に永久にずっと存在している魂というかスピリットがあって、今たまたま人体という借り物を着て、地球に来ているという考え方でもあるんですよね。自分のそのずうっと存在している物体ではないものと、ブラフマンという宇宙と同一のものとがつながっているんだということを確認する、気づくという意味で、ヨガが使われていたと思うんです。
S ブラフマンって、具体的にどう理解したらいいですか?
Y カーストの階級で一番上もブラフマン、ヒンドゥー教の三大神はヴィシュヌとシヴァとブラフマンだし。ここでいうブラフマンというのは思想でいうブラフマン。全てのこと。人間が小宇宙なら、全部のことを大宇宙というのですが、一元論みたいな、本当は一個なんだ、一つなんだということに基づいているらしいんです。
宇宙と自分をつなぐために瞑想が使われたんですよ。瞑想するのは、座った状態で眠らずに背骨をできるだけ垂直に保って、負担を最小限にするのがいいということに気づいたんでしょうね。それを一生懸命やっているうちに、どうも座っているのが大変だ、ということにたぶんなったんじゃないですかね。
S 長く座ってられないんですね。
Y そうそう。アーサナという意味は坐法という意味なんですよ。座るという意味なんです。初期の頃というのは、正座した形とかそれを崩した形とか、あぐらみたいな形とか、坐法なんですよね。近代になって色んなポーズをアーサナと呼んで普及してきたんですけれど、なぜかというと、大変なんですよ体が。その体をなんとかしよう長時間座ってても大丈夫なようにしようということでアーサナが発達してきたと考えていいんじゃないでしょうか。
【ファシア、身体を連続的に繋いでいるもの】
S 癒着をとるのにヨガは有効だというお話でしたが、山下さんは施術をする際には、癒着のキーとなっている「ファシア」を動かすことを意識しているということでした。ファシアとはどういうもので、ヨガの有効性とどういう関連があるのか教えていただけますか?
Y 筋膜とかファシアと言われているものがあるんです。
皮膚と筋肉の間、いわゆる軟部組織と結合組織と言われる場所にそれがあって、今までよくわかってなかったんですよ。膜なんだか何かがあるよねという感じだったんですけど、実はそれが、全身をネット状につないでいることがはっきり観察できるようになったんです。どこかが動くと必ずファシア全部が動く。動いたりとか、全てに影響が起こります。ネットですから。指圧マッサージや鍼灸、運動療法などに携わっていると、当たり前のことのように感覚でわかります。
例えばどこか痛い時に、そこの痛い場所が悪い場合ももちろんあるんですけれど、痛いのはなんでかと考えると、全身タイツを着た人が中にもう一枚タイツを着ていて、内側のタイツがズリッとずれていたら気持ち悪いですよね。タイツが糊付けされちゃってるとか。癒着だったり、ファシアがねじれているというようなことが起こっちゃう。それが積み重なっちゃうと、痛みがでてしまう。それを一回ぶっ壊して、新たに組み立て直すのがアーサナの役割だと考えています。
僕は自分でやっててそう思うし、そうやってきたんですよ。
ファシアという言葉がはっきりする前には癒着癒着と言ってたんですけど、でも実はファシアの流れというか存在というのを中国の人たちは経絡や経筋と感じていたんじゃないかなと思います。
参考 What is Fascia
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