NEUTRAL BASE セラピスト山下洋平さん インタビュー2
ありとあらゆる人間のからだを診てきたセラピスト山下洋平さんに「見えるからだ 見えないからだ」を教えてもらいます。
前回から読む 見えるからだ 見えないからだ【1】へ
Sarasvat (以下S) 以前ヨガの写真を撮らせてもらった時に、すごい開脚をされていましたね。あれは何と言うポーズですか?
Yamashita (以下Y) ハヌマーンアーサナと言う、前後開脚のポーズです。前後はできる人少ないですね。あれは仙腸関節という、動かないと言われている骨盤にある関節を動かせないといけないんですよ。まずはそこが動かないという思いこみが解けると、できるようになるのが早いです。お尻の筋肉や、股関節をイメージ通りに動かすことができるようになると、仙腸関節も動くことに気づくんですよ。

S 初心者でヨガをやりたいという人がいたとして、ヨガをお勧めしますか?
Y おすすめは、人によりますね。
S ヨガをお勧めする人としない人。しない人はどういう人でしょうか?
Y なんとかして体を柔軟にしようとして頑張る人とかはちょっとやめた方がいい。
S えっ。それはなぜですか?
Y ヨガがやっていることは、柔軟性を求めることではないんです。やっていくうちに可動域が上がってくるんですけど、一生懸命筋肉を伸ばすだけだと、体を痛めやすいし、あまり効果が期待できない。効果とは何かというと、瞑想がしやすいとか、瞑想状態に入れる体を作るということをやっているので、柔軟性を求めているわけではないんですよ。
S 目的は「つなぐ」という?( ヨガの語源はむすぶ、つなぐという意味。宇宙と自分をつなぐためヨガが使われた。参照:見えるからだ 見えないからだ【1】)
Y つなぐということなんですよ。つながればどうやってもいいんです。
S ヨガじゃなくてもいい、というわけですね?
Y そう。はっきり言って太極拳だってつながっちゃうわけです。だからポーズが必要なくなっちゃう。頑張って戦士のポーズとかやる必要がなくなっちゃう。
何でヨガがこれほど普及して身体にいいと言われているかというと、一つはアライメントが整うからなんです。(*「アライメント」とは、重力に対してムダな力を必要としない骨配列のこと。)
ヨガのアーサナは体系化されています。アライメントを整えていく段階で、どこに力が入って、どこが緩むと関節が設計どおりに動くのか、ということがシステム化されています。ポーズですから先生が見て、こことここに力入れて、ここ伸ばして、ということができる。だから教わりやすく、教えやすい。あーなんか伸びてここに力が入って、次の日は筋肉痛きてみたいな。そういう運動した感はある。ちょっと経つとある程度柔軟性も上がる。
【目的は健康ではなく、つながること。その通り道に健康がある】
S ヨガを始める人も、そこ(柔軟さ)だけを求めないほうが良いということでしょうか。
Y 最初は柔軟性を求めたりとか、健康というイメージで始めますよね。ただ、本当にヨガをやってた人って健康なんか求めてないと思いますよ。「命とは何か」とか考えてたでしょう。多分。だから別に健康、知らないよそんなことっていう話じゃない?ヨガって。
S そうなんですか?
Y 目標設定が高くて、その通り道に健康がある、という感じですかね。昔は生き残る人が健康だった、ということになるでしょうね。だけど、「健康」にフォーカスすると、到達点とか目標地点とか想定が違うってことですよね。
S なるほど。じゃあ、もともとの昔からのヨガの理論は、太極拳もそうですけど、目的は健康ではないということですか。
Y ないと思いますね。
S もっと崇高な何かがあって?
Y 崇高というか、悟りといえばわかりやすいんだけど。超健康っていうことですよね。健康を超えちゃってる状態という。
S 要は、つながった状態にあるということですか?
Y そうですね。つながっている人ということになりますよね。それが本当にできちゃってつながりっぱなしの人って、名前が残っている数名ですよね。キリストとかブッダとか、孔子とかも多分そうだったでしょう。最近の人だとラマナ・マハルシとか。(*ラマナ・マハルシは南インドの聖者)
S 超越した人がそういう宗教的な教祖になったんではないかと。
Y おそらくそういうことでしょうね。彼らはアライメントとかなんとかではなくて、超健康なんで、頭の中で自分を浄化できちゃう。多分そういう世界にいたんじゃないですかね。超人ですよね。そういう風になっちゃったという。
【アーサナだけを追い求め、逆に身体を痛めないように】
S では、ヨガの取り組み方というのは、もともとの語源にある通り、つながるという目的としてやるのはおすすめですか?
Y はい。そこがわからなくなっちゃうと、筋トレやストレッチ体操と何が違うの、ということになっちゃう。
S でも今、瞑想をやらないところが多いのでは?
Y やらないところも多いですね。
S (筋トレやストレッチ体操的な)そのヨガのゴール地点っていうのもありますか?
Y そうですね。生活動作が楽になるとか、気持ちが軽くなるとか。そこからまた新たな気づきが始まって、「つながる」ということに意識が行きやすくなるんじゃないかな。
でも、思想、その部分をなしにするんだったら、ピラティスの方がいいと思う。身体の構造に基づいた、こことここの筋肉を使ってこうやってやった方がいいと明確に決まったものの方がわかりやすいと思う。ピラティスの指導者は、そこの勉強をメインにしてますからね。ヨガは自由度が高すぎちゃって、先生と同じようなことをしたら痛くなっちゃったってことがあるわけですよ。
S それはありますよね。特に、私みたいなからだの硬い人間は山下さんと同じポーズをとろうとしたら、おそらく大変なことになりますね。
Y それぞれのクライアントさんに合わせて指導できる先生に会えるといいですよね。
S アーサナだけを求めるようなヨガはあまり良くない、ということですか?
Y そういっちゃうと、世界じゅうから大批判を食らっちゃうので、言えないんですけど、目標としては悟りでしょっていう。僕はいつもヨガ教室の時にまずはヨガって何だと思いますかっていうと「呼吸を伴う体操ですよね」とか。「気持ちいいからやる」という。いや、気持ちいいんですよ。ただ、気持ちいいの先には何があるかというと、ご存知ないか、うっすら知っているけど、はっきりしていませんよね。
要するに富士山を目標にするのと、エベレストを目標にするのとでは、全然到達点が違いますよね。エベレストを目標に練習していると、富士山は練習台なんですよ。富士山を目標にしていると、高尾山で練習しないと登れないですよ。
Pingback: The visible body and the invisible body 1 – Sarasvat India